動物園日和

子どもとの日々、本や映画のことなど。

読書記録 給食アンサンブル

「給食アンサンブル」はある中学校の給食をめぐる物語。

短編集として1話1話独立しても読めるけれど、それぞれが緩やかにつながって最後の話に至る構成。比較的穏やかな中学生ばかりであまり不穏な展開もなく、全体としてはほのぼのとしている。「ミルメーク」「ABCスープ」「黒糖パン」のように誰しもがある種のノスタルジーを感じる給食ならではのモチーフに心惹かれてしまう。

 

子どものころ、好きだった給食のメニューは今でもよく覚えている。

いつしか給食を食べる学校生活が終わり、ふと気がつくとあんなに好きだったのに、今ではまったく食べていないものがいくつもある。「かみかみこんぶ」「冷凍みかん」「麦芽ゼリー」「パインぼう」そして「ミルメーク」。

 

私にとってミルメークは、小学校の時だけ味わえた尊い存在で、いわば初恋の彼みたいなものだ。ミロとはちょっと違う。ミロとは、小学校を卒業した後もつかず離れずの関係だ。スーパーやコンビニでもしょっちゅう会う。近所に住んで大人になってからも交流が続き、むしろ昔よりうちら仲いいよねー、それがミロと私の関係だ。

だから私はミルメークに会わなくても満足だった。記憶の中のミルメークにいつまでも光り輝いていて欲しかったのだ。落ちぶれたミルメークも調子に乗ったミルメークも受け入れられない。中学生のころ好きだった、素朴なクラスメイト男子(美術部)が、同窓会で会ったらIT系のベンチャーで髪の毛立ててて柄物のシャツに柄物のネクタイでやたらSNS向けの写真を撮っているところを想像してほしい。そんなの嫌だ。彼は相変わらず素朴で、無印良品のシャツをパンツにインしていて、ちょっといいなって思うけれど長いこと付き合った彼女としっかり家庭を築いていて、なんだー残念、と思う感じであってほしいのだ。・・・何の話だ。そう、ミルメークの話だった。

 

最近ミルメークに会った。

 

 

ダイソーで。

 

彼は相変わらず素朴な佇まいだった。嬉しかった。あの牛もいる。年月を経ても牛はスタイリッシュにならず、佐藤可士和がロゴをデザインしなおした気配もない。良かった、本当に良かった。

ねえ、ミルメーク。ここにいたんだね。私、あなたのこと大好きだったんだよ。知らなかったでしょ。ずっと、ずっと好きだった。

男子とおかわりじゃんけんしちゃうくらいに。その男子のことちょっと好きだったのにじゃんけんで負かして「うおおっしゃあああ、ミルメークゲットーーーっ!」って叫んじゃうくらいに。

 

 

と数秒間脳内でミルメークに語り掛けた後、子どもに聞いてみる。

ミルメーク売ってるよ。買う?」

すると「ミルメークって何?」というクールな回答が。

そう・・・ミルメーク知らないんんだ・・。

 

かくして我々はレジに向かい、無事にミルメークを入手したのでした。

今や108円出せばミルメーク8回分飲めるんですね。こんなにあっさり手に入るなんてそれはそれでちょっと複雑な気分になる煮え切らない自分なのでした。