動物園日和

子どもとの日々、本や映画のことなど。

読書記録 人間タワー

朝比奈あすか「人間タワ―」を読んだ。 

大規模な組体操を伝統とするある小学校の人間タワーを巡り、様々な人物の視点が交差していく。

 

「君たちは今が世界」がとても良くて、同じ作者の、同じように小学校を舞台とした作品を選んで読んだ。

 

子育てをしていると、もう一度子ども時代が戻ってきたような不思議な懐かしさを感じることがある。朝比奈さんの作品も、読んでいると、小学生だったころの自分が捉えた世界がふいに生々しく蘇る。運動会の音の割れた放送、砂埃で口の中までじゃりじゃりしたこと、体育座りしたときの地上数十センチの高さから見た風景。今では小さな一つ一つのことが世界の終わりみたいに苦しかったし、お腹の皮がよじれるほど可笑しかった。希望も絶望も、今の何倍も大きかった。生まれたての犬の足に柔らかな桃色の肉球があるように、小学生たちは無防備で剥き出しの感受性を持って様々な体験を積んでいくのだから。

 

今年、子どもたちの通う学校の運動会はコロナの影響で大玉転がしも応援合戦も玉入れも綱引きもない。組体操も騎馬戦も、運動会の花であったろう競技は一様に中止になってしまった。子どもたちが小学生のうちに、友達と肩を組んだり手を取り合う機会は訪れるのだろうか。

 

様々なニューノーマルの海を泳ぐ中で、運動会のあれこれは絶滅危惧種のように稀少になってしまった。でもきっと、ソーシャルディスタンスがしっかりととられたあの等間隔の体操服たちはかつての私たちと全く変わらない喜びや悲しみやあれこれの日々を送っているのだろう。

 

校庭から、風に乗ってかすかな音楽が流れてくる。何の曲かと耳を澄ませているうちにチャイムが鳴り、体操服たちは校舎へと吸い込まれていった。